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梨の木　　　　詩：谷川俊太郎
　　　　

梨の木は本当だった
山羊も遠い山々も
重い木の扉も
小鳥の鳴声も

ただ私たちだけが
本当ではなかった
隠された不安
つくられた微笑

たがいの幻想に憩い
好みの飲物を啜り
真実を避けようと
とめどなく話しつづけ

死までの長い時間を
量ることができず
物から物へと
視線をさまよわせた

梨の木は本当だった
八百年前に置かれた石も
その上の陽差も
一匹の蝉も



poem "Pear Tree" by Shutaro Tanikawa from his book "Letter"